ブトルファノールの硬膜外投与は静注投与に比べて利点がない
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[目的] ブトルファノールを静注と硬膜外腔注入の2つの経路で投与して作用を比較する.
[背景] ブトルファノールは,麻薬拮抗性鎮痛薬で短時間作用性であり,麻薬扱いでないので比較的使い易い.
[研究の場]手術室(米国)
[対象]定時で帝王切開術を受けた産婦42人.
[方法] 帝王切開の麻酔はL2-3またはL3-4より挿入した硬膜外カテーテルから2%キシロカイン5mlを反復投与してT4レベルまで無痛領域を確保して行った.術後の疼痛管理には患者を無作為に3群に分け,ブトルファノール2mgを使用した. 硬膜外群はブトルファノールを硬膜外腔へ,生食を静脈内へ注入した. 静脈群はブトルファノールを静脈内へ,生食を硬膜外腔へ注入した. 対照群は両方へ生食を注入した. これらの処置は最後にキシロカインを投与してからちょうど60分後に二重盲検法で行った.その後疼痛スコアを30分毎にVAS(Visual Analogue Scale)を用いて3時間後まで測定した.この間鎮痛が必要となった患者には,モルフィン静注でPCA(Patient-Controlled Analgesia)を開始した.
[結果] ブトルファノール投与後PCA開始までの期間は静脈群と硬膜外群で等しかった(それぞれ89±9と83±8分).また両群共に対照群(39±4分)に比して有意に(p<0.001)長かった.鎮痛の強さは全ての時点で静脈群と硬膜外群の両者間に有意差はなかったが,両群とも対照群よりペインスコアが有意に低かった. 静脈群と硬膜外群でモルフィンの使用量に差はなかった.対照群に比べるとブトルファノールを用いた2つの群は最初の2時間のモルフィン使用量が有意に少なかったが,それ以降は3つの群の間にモルフィンの使用量の差はみられなかった. PCA療法の初回投与後に対照群の60%,硬膜外群の13%に掻痒症が見られたが,静脈群ではみられなかった.悪心は対照群の53%,静脈群と硬膜外群の両方で13%にみられた.傾眠傾向は静注群の66%,硬膜外群の13%,対照群の7%にみられた.
[結論] 2mgのブトルファノールは,静脈投与でも硬膜外投与でも,鎮痛効果に差はなかった.両者とも,PCAモルフィン使用中の掻痒症と悪心を減らすのに有効であった.
[注] 脊髄に麻薬受容体があることは確実だが,「だから硬膜外投与が有効」と結論はできない.モルフィンやフェンタニルを含めて,麻薬や類似薬を使用する際に,硬膜外腔投与と静注投与で臨床的に作用に違いがあるかは確立していない.
文献: Camann WR, Loferski BL, Fanciullo Gj, Stone ML, Datta S. Does epidural administration of butorphanol offer any clinical advantage over the intravenous route ?. Anesthesiology 76:216-220. 1992.
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諏訪邦夫
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