電子版麻酔学教科書

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  老人の術後混迷を避ける麻酔プログラム #12
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月11日 16時39分
老人の術後混迷を避ける麻酔プログラム

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[目的]
大腿骨頚部骨折の老人の手術の術後の混迷の予防と治療のプログラムにおいて,麻酔がどのように影響するかを解析する.

[背景]
ACS(acute confusional state:混迷状態,譫妄状態)は,老人のケアの重大なテーマである.医療従事者の負担が増すし,入院日数も長くなる.筆者らの別の研究では,術後混迷状態になった患者は,そうでない患者に比較して入院期間が4倍に延長したことが判明している.
この状態は,幸いにしてきっかけの明らかな場合も多く,予防がまったく不可能ではない.そこで,対応を検討する.

[対象]
プログラム自体は,類似の患者グループを対象として以前に施行した“前向き計画的研究( prospective study )”に基づいている.今回の患者103例の結果を前回のデータ111例の結果と比較した.男性28例,女性75例.平均年齢は79.5歳(65〜102歳).

[方法]
治療と予防のプログラムは手術前後の評価,Pao2療法,周術期の血圧低下の予防と治療,術後合併症の治療などで評価した.評価にはDSM分類(アメリカ精神医学会の“Diagnositc and Statistical Manual for Mental Disorders ”)を使用した.
手術の方針としては
受傷後すみやかに手術する.
老人科または内科専門医が診察して,血栓発生の防御処置を講ずる.ヘパリンを投与する.心不全があれば利尿薬を使用する.
術前に血液ガスをしらべ,酸素を投与する.術後も,酸素投与を止めるには血液ガスのデータを確認する.
麻酔法:ブピバカインによる脊椎麻酔.前投薬にモルフィンを使用.

[結果]
混迷の発生率は,今回は 47.6% で,対照の 61.3% より有意に低かった( p < 0.05 ).また,発生した場合も,程度が軽く期間も短かった.
術後の皮膚潰瘍,転倒,尿閉も少なかった.
入院期間も今回は11.6日で,対照の17.4日より短かった.

[結論]
術後混迷の治療と予防のプログラムを実行すると,発生率・重症度・期間が短縮し,入院期間がかなり短縮する.

文献:
Gustafson Y, Brannstrom B, Berggren D, Ragnarsson JI, Sigaard J, Bucht G, Reiz S, Norberg A, Winblad B. A geriatric-anesthesiologic program to reduce acute confusional states in elderly patients treated for femoral neck fractures. J AM GERIATR SOC 39:655-662. 1991.


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諏訪邦夫

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