悪性高熱
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概念: 周術期に急激に高熱を発し,ショックに陥って死にいたる状態. 頻度と疫学: 一万人に一人位の発生頻度である.統計的には20代男性に多く,また本人の麻酔経過の異常が既往に知られている場合も半数をしめる.家族的な発生も,日本では少数例だが知られている. メカニズム: 骨格筋内の筋小胞体からのカルシウムイオンの遊離が異常に亢進して,筋強直を生ずる.筋小胞体のカルシウムチャンネルのアミノ酸の配列異常がみつかっている.遺伝子解析も開始されたが,一挙に解決するかどうかは疑問らしい.
トリガーとなりうる薬物 すべての吸入麻酔薬,特にハロセンが悪名高いが,単に使用例が多いだけかもしれない. 脱分極性筋弛緩薬つまりサクシニルコリン. 安全に使用できる薬物 麻薬 ふつうの鎮痛薬 非脱分極性筋弛緩薬
診断: 診断の基準としては, 体温上昇が15分で1度以上または1時間で2度以上. 導入時のサクシニルコリンで筋弛緩でなく筋剛直. 実験的にはハロセンで起こりやすく,臨床的にもハロセン麻酔での発生頻度が他の麻酔よりはやや高い. 発症後は,血清CK上昇,血清ミオグロビン上昇,ミオグロビン尿がでる. ミオグロビン尿は,臨床的には“血尿”または“ヘモグロビン尿”のようにみえることも多い. いわゆる診断基準ではないが,PETco2 上昇も特異性が高い.急速なアシド−シスの進行による見かけの二酸化炭素産生の増加がメカニズムである. 対応: 術前に疑わしければ手術を中止して精査し,準備を整えて施行する. ダントリウムの使用できる現在でも,発症した場合の死亡率は10%程度あるので,漫然と対応することは許されない.
麻酔・手術中に発見された場合 全力で冷却する.体外循環を使用した報告もある. ダントロレンは特効薬である.5mg/kgを15分毎に,体温下降の始まるまで反復投与する.ダントロレンを使用しても,冷却は併用する. トリガー薬物の使用中止と排出促進(特に,ハロセンの場合). 対症療法 アシド−シスの治療 GI療法(Kの低下を図る) GIK療法 抗不整脈療法と循環動態の維持 利尿薬 なお,悪性高熱全般の説明追加あり ダントロレンに関しては,別掲
[蛇足]悪性高熱は現在ではわれわれ麻酔医はよく認識するようになったが,広島大学医学部麻酔学教室の功績が大きい.悪性高熱に対する関心の低かった時点で,この問題に教室を挙げてとりくみ,学問的な業績もあげながら全国の麻酔医を啓蒙したからである.ある時期,日本の悪性高熱は西日本に偏っていたが,これは広島大学の影響のつよい地域でこの疾患が認識されて報告されていたからに他ならない.
キーワード:悪性高熱症,筋剛直,家族歴,骨格筋異常,ダントロレン
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諏訪邦夫
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