シャックリとその止め方
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概念: シャックリは咳やバッキングとは異なる.気管内チュ−ブに対する反応ではない.
状況: 上腹部手術で,特に胃の小弯部の操作時によくみられる. 胸壁の動きは殆どない.もっぱら横隔膜の痙攣的な動きだが,手術操作を著るしく妨害する.
生理: なおシャックリのことを“横隔膜の痙攣”というが,シャックリは筋肉の現象ではない.中枢神経系の現象である.むしろ,“呼吸中枢の異常な発射”といった方が妥当であろう. シャックリは動物モデルがなく,その生理がよく分っていない.研究論文も皆無.
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しゃっくりの問題点 手術の妨げになる. コントロールは困難. 筋弛緩薬はあまり有効でない. その他の方法も決定版がない. 頻度が高いくせに,研究対象にはなりにくい.動物モデルがない. 発生率は上腹部手術,とくに胃袋の手術で高い. しゃっくりのうまい止め方 術中のしゃっくりは管理に難渋するコンプリケーションの一つである.絶対的な止め方はU−に示すエーテル.
通常試みられる方法は, 麻酔を深くする→あまり有効でない. 筋弛緩薬を投与する→意外にも,あまり有効でない.
仮説: しゃっくりは大変につよい神経活動であるが故に,通常の神経筋遮断法では切れないのであろう.そもそも,横隔膜は筋弛緩薬に強い,つまり筋弛緩薬に抵抗性があることも関係しているだろう. 鼻腔や咽頭喉頭部をネラトンなどで刺激する→有効率が高い. 他の薬:例,ディアゼパム,クロールプロマジン→あまり有効でない. エーテル投与→有効率が高い.下に説明. 術野から食道裂孔部を局所麻酔薬でブロックすれば100%有効.外科医の協力が必要.人によっては手術操作が原因になっていることを理解しない. しゃっくりをエーテルで止める方法. 人工鼻にエーテルを浸して,これを気管内チュ−ブに付けて過換気する.回路は閉じて少量の酸素だけとして(つまり低流量麻酔),用手人工呼吸.この間は電気メスの使用はもちろん遠慮して貰う. 5分〜10分これを続けたら,流量を増やして回路を開く.電気メスも使用してよい.
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[蛇足] あるときエーテルがなかったので,ハロセンを使用してみた.しゃっくりは止まったが,血圧が猛烈に下がってしまい,あわてた.あとで考えれば当然である.
[文献] 最近,医科歯科大学の大島先生がしゃっくりの動物モデルを作成し,J Appl Physiolに報告している.しゃっくりは,動物モデルがなくて研究ができなかったが,これによって研究が進むものと期待したい. 参照:しゃっくりの動物モデル作成に成功!
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諏訪邦夫
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