バッキング(怒嘖反射)
--------------------------------------------------------------------------------
麻酔時とくに浅い麻酔レベルや麻酔終了時に起るバッキングは,基本的には「咳」である.咳の場合は喉頭が閉じるので胸郭や横隔膜の動きは小さいが,麻酔中はこれがないから動きが大変に大きくなる.
[防止法]麻酔を深くするか,刺激を押えるかしかない. 挿管時に十分に局所麻酔薬でスプレ−すること.ゼリ−も十分に塗布すること.気管内挿管のまま頚部を動かす必要のあるときは,麻酔を深くするか筋弛緩薬を投与. 手術終了時に体位変換の必要がある時は,
可能なら先に抜管してしまうか, サクシニルコリンを投与する.筋弛緩薬が効いていればリバ−スはしない. リドカイン1.5mg/kg静注も有効. ただし投与後1〜2分のみしか効かないのでタイミングが肝要.
蛇足: バッキングとシャックリとは鑑別が必要である.治療法が異なるためである. バッキングは呼気,シャックリは吸気である. バッキングとシャックリとは異なる反応である.処置も違う.
クイズ: 「絶対にバッキングしない麻酔は悪い麻酔である」.何故か.
回答: バッキングを指標としたED50のようなものを考えてみる.そうすると,「バッキングの可能性を減らす」とは,ED50よりどの位余分のレベルで麻酔しているかに対応する. これは確率論ないし分布の考え方からいえることだが,
10%の確率でバッキング ED50× 30%まし 1%の確率でバッキング ED50×100%まし 0.1%の確率でバッキング ED50×200%まし
とかいう関係になる.(数値はあまり根拠はない.感覚的な値) 絶対に安全な車”を求めたら戦車にでも乗るより方法がないというのと同じ.
キーワード:咳,チュ−ブの刺激,リドカイン静注,シャックリ
--------------------------------------------------------------------------------
諏訪邦夫
| |