空気塞栓
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術中にガス塞栓のおこる可能性 術野が心臓の位置よりも高い場合,特にそれが骨の手術を含む場合,空気塞栓の可能性がある.具体例としては坐位での後頭窩開頭手術,頭低位で行う骨盤の手術などがこれにあたる. 理由は術野の静脈圧が陰圧となること.特に骨に埋もれた静脈は大気で圧迫されてコラプスすることが不能なので内腔が開存し空気を吸引するわけである.
腹腔内圧を陽圧とする手術:内視鏡下胆摘術,婦人科の腹腔鏡術 気腹には二酸化炭素を使用するので,正確には空気塞栓ではなくて二酸化炭素塞栓である.
病態と診断 まず肺循環系の変化が起る.肺動脈圧の上昇. 少量では大循環系の循環動態には変化は起らない. 空気塞栓ではPETco2 が低下する(Paco2 − PETco2 の較差拡大). 診断は,食道聴診器,肺動脈圧記録,気道内Pco2 の連続記録など
[治療] CVPカテ−テルから空気をひいて除去する.笑気による気泡の成長を防ぐべく,笑気の投与を中止する.気泡が脳に向かわないように,頭を下げる. CVPカテ−テルから全部吸引することはできないが,少量なら危険は少ないので吸引することは意義が大きい.
[予防] 体位を避ける. 笑気を少なく使用するか,まったく使用しない. CVPラインを入れておく. モニタ−を準備する (食道聴診器,Pco2 の記録.スワン・ガンスカテ−テルの記録). モニタ−で発見すれば,発生を術者に知らせて,対応してもらい量を最小限に抑えること. 脳外科医はよく知っているが,他の領域の医師の知識は充分でないので,術者を教育する必要もある.
空気塞栓が動脈側にぬけるメカニズム 空気塞栓が全部肺動脈にひっかかってしまえば動脈系の塞栓は起きない.しかし,静脈に入るガス量が多くなると動脈に抜ける.これは事実として発生している. 空気塞栓が動脈側にぬけるメカニズムは二つ知られている. 大量になると肺毛細管をぬけてしまう.この気泡は当然小さいが確率現象であるから大きなものもあるし,小さな気泡が動脈側でふたたび大きくなることもある. 成人でも,卵円孔の開存している人が少なくない.調査によって異なるが,10%〜30%といわれている.通常は障害とならないが,肺塞栓によって右心系の圧が上昇するとこの卵円孔が逆シャントの経路となって,ここを気泡が大循環系に抜ける.
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諏訪邦夫
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