誤飲とその処置
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語義: “誤飲”は英語の Aspiration の訳語である.麻酔学用語としては,“胃内容が逆流してそれが気管から末梢気道に入った状態”を指すことになっている. 同義語: 誤嚥,誤引 起こり方: 胃内容がある状態で,不用意に麻酔を施行し,しかも気道を完全に分離しない場合. 起こしやすくする条件: 食事から時間が経っていない状態 食後間もなく受傷して,消化が進まない場合 マスクで麻酔を行なう場合 脊椎麻酔・硬膜外麻酔などでつよい鎮静を併用する場合 老人は声門の反射が低下しているので,誤飲を起こしやすい. 妊産婦は噴門の閉鎖がわるく,逆吐を起こしやすい. 障害: 誤飲した液体のpHが重要で,3未満では肺を強く損傷するが,4以上ならば損傷は小さい. この他に,固形物や粒状物が直接気道を塞ぐこともある. 予防: いろいろな方法の組み合わせることが可能 胃内容を空にする−−胃カテーテルで吸引 手術中に胃カテーテルで吸引しておくと,手術直後の誤飲を防止するのに有効. 胃内容の酸度を下げる−−重曹を飲ませる 胃内容の産生を防ぐ−−−H2ブロッカーを与える 逆吐を防ぐ−−輪状軟骨部位に圧をかけて食道を閉鎖(その項目そ参照) 胃へのガスの進入を防止−−挿管までは加圧呼吸を防ぐ 気道を確実に分離−−カフ付き気管内チュ−ブして挿管
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事故と合併症:誤飲性肺炎:
脊椎麻酔や硬膜外麻酔でも起り得る.
誤嚥物の酸度に注目.pH2.5以下の場合は強い炎症を起してくる.症状は急性気管支炎・肺炎に同じ.即ち聴診上のラ音・呼吸の不整・呼吸困難・X線の変化(刷りガラス状)・血液ガスの悪化などである(Mendelson症候群とも呼ぶ). 治療はまず洗滌(胃酸の分布を拡大するので反対あり).気管支鏡(選択的洗滌と固形物除去),ステロイドと抗生物質投与,状況によっては人工呼吸をふくむ呼吸管理 Mendelsonは,音楽家のメンデルスゾ−ンとはかなり綴りがことなる.
たとえば,上部消化管出血患者に内視鏡施行中に誤飲が起っていることを示す報告もある.ICUで食道・胃・十二指腸の内視鏡30例だが,挿管してなかった6例中5例で誤飲したという.
文献: Lipper B, Simon D, Cerrone F. Pulmonary aspiration during emergency endoscopy in patients with upper gastrointestinal hemorrhage. Crit Care Med. 1991 ; 19: 330-3
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諏訪邦夫
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