電子版麻酔学教科書

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  輸血とGVHD #43
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月10日 21時47分
輸血とGVHD

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語義:
骨髄性悪性腫瘍(白血病など),再生不良性貧血,遺伝性免疫不全症などに骨髄移植を施行する.ところが,この移植が成功して100日経つと厄介なGVHD( graft-versus-host disease:移植片対宿主病)が発生して,結局生存できない.
ところが,最近では通常の輸血でも同様の障害の発生することが判明して重大な問題となってきている.輸血の場合は,発症はだいたい1〜3週間(20日)で骨髄移植の場合よりも期間が短い.

メカニズム:輸血の場合
通常の保存血に存在するリンパ球は,輸血を受けた患者にとっては“異物”である.他人からの一種の臓器移植なのだから当然である.したがって,通常はリンパ球はやがて死滅するが,何らかの原因で生き残ると逆にこのリンパ球が患者側を攻撃する.
 このメカニズムのために
リンパ球が生き残っている血液の輸血では起りやすい.
逆に濃厚赤血球ではリンパ球がほとんどないので起りにくい.
凍結赤血球浮遊液では起らない.
新鮮血では起りやすい.“生血”では特に起りやすい.
下の理由も加わって,家族血輸血で起りやすい.

また,供血側と輸血を受ける側が中途半端に血縁関係が近いと発生率が高いという.
家族間輸血では異物性が低いので,リンパ球が生き残りやすく起りやすい.組織適合性抗原(例えばHLA)が部分的に一致しているケースがこれにあたる.
日本では発生率が高いようである.同族性が高いためとされている.
感染の場合と異なり,多数の供血者からの血液が混合した方が起りにくい.この意味では,輸血の単位を200mlから400mlに増したのは好ましくない理屈になる.ただし,下のようにして対応は可能である.

発症と症状
はん種状紅はん
発熱
消化管の症状
肝障害
骨髄無形成,敗血症などで死亡

発生頻度
1992年の全国調査で,791例が報告され,うち469例は定型的なGVHD,さらに確定したものは171例であった.

防御法
リンパ球の輸血を防ぐ
そのために輸血の前にあらかじめX線を照射してリンパ球を破壊する.
生血,新鮮血,全血などは避けて,リンパ球を含まない成分輸血に切り換える.

参考:
悪名高いサリドマイドの用途があるらしい.
GVHD治療薬としてのサリドマイド


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諏訪邦夫

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