水中毒と麻酔−TURの麻酔
--------------------------------------------------------------------------------
水中毒は溺水で見られるが,手術や麻酔との関連でも観察される.
状況: 低電解質液の過量投与,TURとの関連(TURの際に用いる膀胱洗滌液は,漏電を防ぐべく,電解質を含んでいない.マニトールやソルビトールの溶液を使用する)が有名. 他にもある. 種々の内視鏡とそれを使用して行なう処置 ぼんやりと5%グルコース液のようなものを大量に投与した場合
TURの麻酔と合併症 TUR(Transurethral Resection )の処置に対する麻酔では,“水中毒に注意”という特別な問題がある.“水中毒”はTURに独特な問題だからである.
原因: TURの際に使用する潅流液は,ソルビトールやマニトールなどの糖質アルコールで浸透圧は調整しているが,電解質は入っていない.電解質が入っていると,電気伝導性が高すぎて高周波電流を利用した切除ができないからである. この潅流液は膀胱壁から吸収されたり,手術で開いた静脈内から直接進入して血液に入る.これが著しい低ナトリウム血症と水分量の増加を招いて障害を起こす.
症状:二つある. 循環血液量が増加して,循環動態が高ダイナミック状態になる. つまり,頻脈・高血圧・心拍出量増加・脈圧増加 低ナトリウム血症 意識があれば,気分の異常や中枢神経系の症状 意識障害,譫妄,うわごとなど:低ナトリウム血症による 循環動態の異常:血圧低下・不整脈(低ナトリウム血症が中心), 酸素飽和度低下とチアノ−ゼ(肺水腫による)
診断: 確定診断は血清Naの分析.
治療: うたがえばすぐに処置する. 低ナトリウムには,ナトリウムイオンを投与する. Naと同時にKの投与も必要 増加した水を利尿薬で排泄 その他は基本病態への処置.
予防的対応: 循環と呼吸のモニタ−(パルスオキシメーターの使用) 血漿ナトリウムの頻回測定:予測が必要 『事件が起こってから対応する』だけでなくて,ナトリウム濃度は頻回に測定して,術者に逐次知らせること. 意識を保つ麻酔(意識障害を発見できるように)
蛇足: TURの際には,水中毒が起りやすい.TURに際しては症状をとらえやすいように,全身麻酔は避けるルールになっている.
蛇足の蛇足: 最近TURにレーザーメスが使われはじめた.こちらは潅流液に電解質液を使用できるので,水中毒の心配がない.ただし,生食を使用すると高ナトリウムと高クロール(特に後者が重大)血症が発生する.
参照:TURがストレスが少ないとはいえない
付1: 閉鎖神経ブロック TURの麻酔に閉鎖神経ブロックを併用することがある.電流が流れて,閉鎖神経を刺激して下肢の内転を起こして,手術を施行しにくくするのを防ぐためである.
--------------------------------------------------------------------------------
諏訪邦夫
| |