筋弛緩薬使用の動向と反対意見
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これは,論文の紹介ではなくて,著者個人の分析とそれに対する意見です.
[目的] 麻酔の導入に,サクシニルコリンの使用をやめてベクロニウムを使用する傾向に反対の意を唱える.
[背景] ベクロニウムの開発普及を契機に,術中の筋弛緩だけでなくて,麻酔の導入と挿管のためにもベクロニウムを使用するようになってきた.理屈や理由はいくつかある. サクシニルコリンは悪性高熱や筋疾患でのK放出がこわい. ベクロニウムは大量に使用すれば,臨床上で問題ない程度には高速に筋弛緩が効く.作用も十分で,サクシニルコリンが特に必要ではない. アメリカでは悪性高熱その他の問題で,法律的なトラブルをおそれる意識がつよい.
[反対の理由] ベクロニウムを導入・挿管にも使うことによって,筋弛緩薬の使用が曖昧になってしまった.導入・挿管にの補助薬としての筋弛緩薬と,術中に筋弛緩をうるための筋弛緩薬を区別しない. 自発呼吸で十分に行なえる場面で,必然的に人工呼吸にしてしまう. それは,気道関係のトラブルを激増させる. 手術中の換気のモニタ−としては,カプノグラフと気道内圧計が有用だが,実質的に備えられていない病院も数多い.マススペクトロメーターは有用だが,即時性がないので麻酔担当者はこれで呼吸をチェックはしない.しかし,代りになにかをモニタ−しているかといえば,それもない.食道聴診器はものは普及しているだろうが,それで呼吸をモニタ−することは実務としては確立していない.
自発呼吸ならば,バッグが動く.それが最高のモニタ−になる.人工呼吸でも手押しならずっとましである.しかし,人工呼吸器を使用している条件では気管内チュ−ブが抜けてもコネクターがはずれても,気づかない危険がある. カプノグラフのような呼吸モニタ−の充実している施設はそれでもまあいい.しかし,そこでトレーニングを受けた医師が,やがて何のモニタ−機器もない外の病院で麻酔する.その状況で,麻酔中の呼吸法として人工呼吸器を使用して人工呼吸を基本にするのは危険すぎる. 私は,そういう立場の人間が麻酔を担当している施設で手術を受けたくない.人にも勧めない. 導入に使用する筋弛緩薬と,手術に筋弛緩を得るための筋弛緩薬はしっかり分けるべきである.そうして,自発呼吸で維持できる麻酔は自発呼吸を使うことも,少なくとも教えるべきである.
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諏訪邦夫
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