サクシニルコリン
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局方名: スキサメトニウム, suxamethonium の日本語読み 英語式に発音するなら,“サキサメソウニアム”
化学と薬理: アセチルコリンが背中合せに二つ結合した化学構造 作用開始が速い. 作用時間が短い.血漿コリンエステラーゼで分解されるからである. Kイオンが遊離する 火傷や神経麻痺の患者ではKイオンの遊離が強く起り,不整脈や心停止の原因となる.
実際: 1mg/kgが普通である.大量投与でも作用は同一で,時間が僅かに延長 胎盤通過性が低く,通過してもすぐに代謝されるので産科麻酔(帝王切開など)にも使用可能 サクシニルコリンをSCCと略記するのは,日本でのみ通用する略号だが便利である.英語ではSCHあるいはSchと略することもある.アメリカ東海岸では“サクス”といいならわすことがある. 現在使用される唯一の脱分極性筋弛緩薬.ただし,欧米諸国の動向に合せて,急激に使用が減っている.
副作用:サクシニルコリンはいろいろな副作用がある. 悪性高熱発症の引金となる.これが一番重大. 火傷患者や神経麻痺患者では,大量のKイオン遊離とこれに伴う循環系の合併症がおこる.これに対しては,プレキュラリゼーションは一応有効だが,絶対確実ではない. 徐脈(特に2回目の投与で,小児で) 線維束性収縮による眼圧上昇 手術後の筋肉痛(予防はプレキュラリゼーション) コリンエステラーゼ活性の低い状態での作用の遷延(遺伝,肝機能障害患者,ネオスティグミン投与後に投与した場合).実際の問題は少ない. 大量長時間投与した場合の第U相ブロック.これも,実際の問題は少ない.こうした副作用は,非脱分極型の筋弛緩薬にはまったくない.そのため,サクシニルコリンの使用がしだいに減少して,非脱分極型筋弛緩薬に切り換わっている. 1994年,95年のアメリカ合衆国では,サクシニルコリンの使用が特に大幅に減少に向かっている.上記の各種副作用のために,医療過誤と訴訟が重大なアメリカでは,使用が困難になってきているからである.使用を禁止した州もあるらしい.
蛇足: サクシニルコリンは20世紀初頭に合成されて,アセチルコリンとともに作用が検討された.この研究で,アセチルコリンの作用がつよい徐脈や血圧低下作用のあることは判明したが,サクシニルコリンについては,dTc使用の動物で実験したため筋弛緩作用はこの時点では判明しなかった.筋弛緩薬としての作用は1949年に報告.1950年代初頭に臨床使用された. 絶好のチャンスを逃したのではない話
キーワード: コリンエステラーゼ,アセチルコリン,K遊離,火傷
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諏訪邦夫
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