ベクロニウム(ヴェキュロウニアム)
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化学と薬理: パンキュロニウムの構造をほんの少し変えることによってできた,新しい非脱分極性筋弛緩薬. 作用時間はパンキュロニウムの半分. 循環動態は安定,血圧の変動なく,心拍数も変化しない. 作用の消褪は肝臓での代謝であって,腎からの排泄の要素はないとされている.
実際: 初回が0.1〜0.2mg/kgであとは半量〜1/4量を追加する. 手術の終りに近い時点でも安心して投与しやすい. 作用開始も速いので,麻酔の導入挿管にも使用可能. 手術が長いときは,初めと終わりにベクロニウムを使用して,中間部はパンクロニウムを使用するのも合理的である.
モニタ−: 作用時間が短く反復回数が多くなるので,蓄積の可能性は高い.長時間の使用に際してはモニタ−を使用することが望ましい.
合併症: 肝からの代謝に依存するので,肝障害患者に使用するには厳重なモニタ−が必要である. 参照 症例:肝機能障害患者でのベクロニウム
費用: 1994年の時点では,新しい薬物の故もあって単価が高く,おまけに力価がよわく作用時間も短いから,かなり高価である.
注意: 作用が短いとはいっても,大量使用では延長.肝障害では確実に延長する. 腎不全なら使用できるというが,データは多くない.遷延無呼吸のおこった症例報告はある.ベクロニウムが“肝臓で代謝を受ける”ことは確実だが,代謝物にけっこうな筋弛緩作用があり,これは腎での排泄に依存している故という.
蛇足: 英語の綴りは“Vecuronium”であって“Curare”からの語源を示唆している.商品名「マスキュラックス」は“Muscle relax ”のつもりだろう.
キーワード:非脱分極性筋弛緩薬,パンクロニウム,循環動態
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諏訪邦夫
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